20歳になる前に

 

彼女がいつも言っていた事、私は20歳に"なれない"のだということ。

僕には少し意味が分からなくてだけれども平気さ、だってこの僕ももう21歳だよと返すより他無かった。

 

いつもなら、腑に落ちないわだけれども分からないものは仕方ないわねさあ昨日何か面白いことはあったかしらと、瞳をキョロキョロさせるはずなのに、彼女は教えてくれた。

 

私はね、20歳になれるわけないの。資格が無いの。人間として、はっきりと無いの。

ずっと幼い頃から生き辛かった。何があったでもない、ただ、何もかもが私に刺さるの、痛いのよ。それも、ずうっとなのよ。

それなのに、もう私19年と11か月も生き延びてしまった!(彼女は少し悲鳴をあげた。)ねえ、20歳になれない人間はどうなってしまうのかな。消されるの?私は無かったことになるのかな。それとも死んでしまうの?ねえ、どうなのかしら。

---私はね、消されるならそれでいい と 思う 、 本当よ。

「ぼくは嫌だよ」「あら、ありがとう嬉しいわ。」「それは良かった」

 

20歳になれなくて、わたしが間引かれたら、そうしたら私があなたにこんな話をし続けていたことだって、なかったことになるのね。それは、美しいかしら、だからその、言葉が、消えるというのは?

 

例えば、そうね、私の人格が、20歳に相応しいものととっかえられちゃうんじゃないかって思うときもあるのそうしたら、20歳からのわたしは、私じゃなくなってしまう。ある意味では、正しい私になっただけなのかもしれない、だけど。

その時私は、今のことを覚えていられるのかしら。そうやってまた俯いてしまうあなたへの愛しさは覚えていられるのかしら。知識なんかじゃなく、手触り、という意味で。

 

そうして彼女は言った。「あなたの言いたいことは分かるわ」

「だいじょうぶだよ」。

そういって19歳の彼女は自分の手のひらを眺め、ヒラヒラと回した。話題に飽きてしまったときの癖だ。

 

 

20歳になってすぐ、彼女は僕の前から去った。「飽きたの」。なるほど。

 

ぼくだけが、あの日の彼女を、覚えているのだろうか。

ぼくらの住む町は、それなりに狭い。

駅前へと続く商店街で3年振りに見かけた彼女は、手のひらをヒラヒラと舞わせながら、3センチのヒールでしっかりと歩いていたし、ぼくは今だって「なるほど」だなんて感じてしまったというのに。